JVCA総会2016レポート

2016年3月26日~27日の2日間にわたって、JVCA総会2016が日本体育大学世田谷キャンパスで開催されました。1日目(26日)にはJVCAの総会と豊田博会長と河部誠一理事長のレクチャーと、日本体育大学の伊藤雅充氏による「JVCA指導者宣言」の策定と、参加者による宣言が行われました。2日目(27日)には昨年10月に指導者研修で訪日していたスポーツパフォーマンスバレーボールクラブのリック・バトラー氏が今回はチーム遠征で訪日していた機会に再度、クラスルームとオンコートでのレクチャーを行っていただきました。

1日目レクチャー1「指導の難しさと学びの重要性」(豊田博)

今、バレーボールだけでなくスポーツの指導が、本来あるべき姿からずれているのではないでしょうか。スポーツはプレーヤーのためのものであるはずが、指導者が中心にいて行われてきました。JVCAは「プレーヤーズ・ファース」選手中心主義を推進しています。対象となるプレーヤーは人間であり、人間の理解なしに指導することはできません。自分のやり方が中心にあって、それを押しつける形の指導ではいけないのです。プレーヤーズ・ファースにそった指導をするには、バレーボールの専門知識に加えて、医学、生理学、バイオメカニクス、さらには心理学など、学ぶべき事がたくさんあります。これを1人でこなすのも、学んでいくのも大変です。できるだけ指導者同士がお互いの学びを共有していくことで、より良い指導につなげる環境を構築していく必要があるでしょう。指導には3段階あり、まずは「楽しさを学ぶ」段階、次に、「教育の手段として」の指導、最後が「勝利を追求する」段階です。第1段階では楽しいという感覚を与え、楽しみながら運動能力の開発、体力作り、仲間との絆・友情を深めていきます。勝利を追求するのはトップレベルであり、ナショナルチームです。学校でのバレーボールは教育の手段として、「生きていくために人間として何が必要か」を与えられる指導でなければなりません。実現可能な目標を設定し、そこに向かって一生懸命努力することではないかと思います。

1日目レクチャー2「指導者の成功とは」(河部誠一)

指導者の成功とは何でしょうか? 勝利なのか、選手の成長なのか? 「選手の成長」と答えながらも、選手に勝たせてあげたいという気持ちもあるだろう。「何度教えても、できるようにならない」と思ったことはないでしょうか。多くの指導者がなんどもやるべき事を伝え、何度やらせてみても、できないことが少なくありません。「何度も教えたはずなのに」という思いが指導者に積もります。プレーヤーはなかなか期待に応えてくれません。そんな思いをしたUCLAのバスケットボール部でJohn Wooden氏に指導を受けた卒業生Swen Nater氏が書いた本が、

You haven’t taught, until they have learned.
(彼らが学んでなければ、教えたとは言えない)

である。何度「教えた」にもかかわらず、リバウンドが上手くならないプレーヤーのことをWooden氏に相談したときに受けたのが、この言葉である。Nater氏は自らが教える高校生を観察し、何が必要かを考えてアドバイスをすることで、そのプレーヤーはリバウンドが上達した。このようなプレーヤーの成長の積み重ねこそが、指導者の成功ではないだろうか。

1日目ワークショップ「JVCA指導者宣言」(伊藤雅充)

「指導者の言葉はなぜ届かないのか」。取材を受けて聞かれた質問です。参加者の中でこれをテーマにまずはグループを作って、その中で出た意見を発表しあいました。「表現が理解できない」「信頼がないから」「学んでいても、動きとして表現できてないために指導者が届いていると認識できていない」などの意見がでました。ただ、この言葉、アスリート・センタードの指導者であれば、アスリートの言葉を指導者が聞くべきではないかと思います。指導者の伝えたいことをアスリートに伝えるのは指導者センタードと考えられるからです。「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」という言葉があります。馬が飲みたいと思うときなら、馬は勝手に水を飲みます。指導も同じで、選手が学びたいと思うときが、指導者の言葉が届くタイミングなのかもしれません。指導者はアスリートが学ぶ支援をするにすぎません。そのことを踏まえて、参加者の皆さんで「JVCA指導者宣言」を作りました。

自分たちがどのような指導者になりたいか。それを明確にし、指導のミッションとして自分自身に約束をするのが「JVCA指導者宣言」です。これをJVCAが指導者に宣言して下さいとお願いすると、それはJVCAセンタードとなってしまいます。そこで、ワークショップの中で個人個人のアイデアをまとめ、グループのアイデアとし、さらにはみんなの意見を調整しながら、自分たちがサインをしたい宣言にまとめていきました。ワークショップ参加者全員の合意で決めた宣言の中身は、以下の3つです。

  • 広い視野を持ち、プレーヤーの成長のために、共に学び続けます。
  • 社会に貢献し支援されるような、開かれた活動を行います。
  • プレーヤーの人間性を育むために、自らが模範となります。

参加者全員で決めた宣言に、全員署名し、よりよい指導者になることを誓いました。

2日目レクチャー「良い指導者になるために」(Rick Butler)

昨年、平成国際大学で行われたクリニックに引き続き、知識と経験を披露していただいたのが、アメリカで最も成功しているバレーボールクラブのひとつを経営・指導しているRick Butler氏です。コーチの役割として、「教師」「トレーナー」「ロールモデル」「サーバントリーダー」を上げます。ロールモデルとは、模範となるひとのことです。指導者はプレーヤーに学ばせる前に、学ぼうとする姿勢、人格などでプレーヤーの手本となるべき存在です。サーバントリーダーとは後ろからむち打つリーダーではなく、先頭にたって進むべき方向を示し、共に歩めるリーダーのことです。プレーヤーを成長させるには綿密な計画が必要です。シーズン計画(年間)、週間計画、毎日の練習メニューも重要ですが、特に子どもの場合は発達段階に応じた大人になるまでの計画が重要です。早い年代で専門化(ポジションの固定など)はプレーヤーとしての発達に悪影響を与えます。まずはたくさんの運動で運動能力の基礎を身につけることがとても大切です。目先の勝利を追求すると、分かっていてもこれをつい忘れてしまいます。指導者は常に学んでいる必要があります。過去10年で「休息の重要性」が言われるようになりました。休息によって身体を回復させ、それが次の高負荷の練習の準備となるからです。同じ休息時間であっても、より効果的に休むための「アクティブレスト」という、身体を軽く動かし、血流を促すことで体内の疲労物質を早く排泄させるための方法です。睡眠もとても大事です。アイシングも回復を促進するのは間違いないですが、もともと人間が持つ治癒能力の低下につながることが分かってきました。そのため、現在では重要な大会での回復促進のためにアイシングをしても、普段はあまり用いない傾向にあります。ベストの指導をプレーヤーに提供するために、このような科学的知見に対してアンテナを張って入手すべきで、指導者は常に情報交換をしたり、書籍やインターネットで情報を入手することを怠ることはできません。

講師 Rick Butler氏
Sports Performance Volleyball Clubオーナー。3~18歳の1500人を越える会員と100人以上のコーチをかかえる全米有数のバレーボールクラブの経営者であると同時に、18歳のトップチームの監督、全年齢の全チームのコーチを育成するマスターコーチ(コーチのコーチ)として、日々現場でプレーヤーの育成に携わっている。彼が監督するチームは年2回ある18歳トップクラスの全国大会で過去30年で35回の全米優勝を記録している。「ゲームはゲームで学ぶ」という風潮が強いアメリカにあって、反復練習とゲーム練習とのバランスを重要視して、成果を出している指導者である。

2日目オンコートセッション
(Rick Butler&Sports Performance 18 Elite team)

オンコートではButler氏が普段指導している、スポーツパフォーマンスバレーボールクラブの18エリートチーム(18歳までのクラブの女子トップチーム)が普段の練習を披露してくれました。日本遠征に来たこのチームの平均身長は180cm(リベロを除く)を越えています。参加者有志も混じって、アクティブウォームアップから、パスやドリルにも参加していただきました。アクティブウォームアップはバレーボールの動きやトレーニングを兼ねて体温

を温めるというやり方です。ドリルにおいては、週3日しか練習をしない状況でも練習効果をあげるために、とにかくたくさんのボールを触れるようにデザインされています。ゲーム形式のドリルにおいても達成可能な数値目標が設定され、常にプレーヤーが意識を高く持つことを促しています。実際の試合以上の負荷やプレッシャーがプレーヤーにかかるような練習となっていました。

質問として、プレーヤーがボールコンタクトをするときに「ハイ」と発生している理由やドリルに参加してないときにプレーヤーが一列に並んでいるのはなぜかと聞かれていたのに対して、Butler氏は「日本から学んだ」と答えていました。

フォトギャラリー

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